『日常の中の朝』
  亜里守と蓮の場合



『朝の学校』というとざわついたイメージがある。
けど、『早朝の学校』はどうだろう。
私は時々登校時刻の一時間前に学校に来てる。
人が多いのが苦手っていうのもあるけど、私は・・・

教室の扉を開けてぐるりと教室を見渡す。
廊下側には誰もいない。教室前方にも誰もいない。窓際・・・いた。
窓際の一番後ろの席に一人。
窓を開け、少し長めの髪を風に遊ばせながら、ぼんやりと外を見ている。
私の顔は知らず知らずのうちに笑みを作っていた。
扉を閉めると、ようやくその人は私に気づいて振り向く。

「おはよう、蓮」

自分の席、つまり蓮の前の席に移動しながらいつものように声をかける。

「おはよう、亜里守」

蓮もいつものように返してくれた。
私はこの時間が一番好きだった。蓮と二人だけの朝の時間。
その幸せを噛締めながら、席について一時間目の準備をする。

「蓮、宿題やった?」

一時間目は数学。
小中高大とエスカレーター式のこの学校は、あまり受験を意識しなくてもいいものなのだが、私達の数学の先生は今年この学校に赴任してきた先生。
去年までは進学校で受験生を教えていたそうで
「君達には受験というものはないが、受験生と同じように勉強しなければ、偏差値は低いままです」
と、受験生として扱われている。そのためなのか、宿題がやたらと多い。
首をかしげながら蓮を振り向いた。

「あー・・・」

蓮は私から目をそらすと頬を人差し指でかく。

「やってない・・・?」

申し訳なさそうにうなずく。
このやりとりもほぼいつものことだ、蓮が宿題をやってこないのはいつものこと。
頭がいいんだから、これくらい簡単なはずなのに・・・

「だってよ、ここの範囲わかってるしやる必要ないかなぁと・・・」
「そっか・・・じゃ、あの、ひとつ聞きたいことあるんだけどいい?」
「あぁ」

これもいつものこと。
私の総合成績は一応上位に入ってるけど、蓮がちゃんとすれば、すぐに私なんて追い抜かれちゃう。
蓮は宿題を出さなかったり、授業態度があんまりよくないだけで、純粋に勉強の出来で言ったら蓮の方が上なんだ。

「これはこの公式で」

そういって丁寧に教えてくれる姿は女の私でも見とれてしまうほどに綺麗。
女顔だっていうことを蓮は気にしてるけど、そんなこと気にすることじゃない。
それにひきかえ、私は特別美人というわけでもないし、気が弱いし・・・
綺麗で性格がいい人なんてきっといっぱいいるのに。
どうして蓮は私なんか・・・

「と、こうなる。わかったか?・・・・・亜里守?」
「へ?」

私がうじうじと考えている間に説明が終わってしまっていた。
またやっちゃった・・・

「ご、ごめんなさい、聞いてなかった・・・」

申し訳なくて、情けなくて自然と顔が下がる。

「亜里守」

怒られると思った。自分で聞いておきながら、聞かなかったんだから。
肩をすくめて待っていたけれど、怒声も何も振ってこなかった。代わりに私の頬に誰かの手が添えられた。
誰か、じゃない。今ここには私と蓮しかいないんだから。
この手は蓮の・・・
蓮の手は、優しく私の顔を上げさせ頬を撫でる。
恐る恐る見た蓮の顔は予想していた怒った顔ではなく、寧ろ眉尻が下がり心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「蓮・・・?」

蓮はしばらく私の頬を撫でてから口を開いた。

「悩みがあるなら言えよ?」
「悩み、なんて・・・」

悩み・・・でも、こんな悩み言ったら・・・
顔を伏せられないので目だけを伏せると、連は頬を撫でていた手を耳、うなじ、と移動させる。

「れ・・・ん」

名前を呼ぼうとした途端、蓮は後頭部に手をまわし私の顔を引き寄せ、口付けた。
反射的に体を引こうとするけど、蓮は私の頭を押さえたまま離さない。

「ん・・・」

触れるだけで唇を離すと、蓮は数式の書かれたノートに視線を落とした。

「俺は・・・亜里守じゃなきゃ嫌だからな・・・」

少しいじけたように呟いた蓮に、胸を突かれた。
蓮にはすべてお見通しなんだ。私が何を思っているのか。

蓮にはかなわないな・・・・

「うん・・・」

私は、ただうなずくしか出来なかった。



次第に一人二人と生徒がやってきて、私達の時間は終わるけれど

それも、いつものこと



いつまでも、いつものことが続けばいいのにと思うのはいけないことかな・・・




あとがきという名の言い訳
えっと・・・書いて後悔はないです。
ただ、これ序章でいいのかと思ってしまう。
序章というのが、彼らの毎朝の風景を書こうという目的のものなので構わないと言ったら構わないんですけどね。
個人的にはもっといちゃいちゃさせたかったけど、ま、これが彼らの日常です。
毎朝毎朝愛を確認しあってるわけですね・・・
どんな馬鹿ップルだ・・・
まぁ、亜里守はちょこっと暗い子で蓮は亜里守のことならなんでもわかる子です。


個人てきにこのカップルが一番好きな檸檬でした。





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