『日常の中の朝』
 恭嘉と闇の場合




朝の5時30分。
今日は勤め先の学校で球技大会があるため、6時には学校に行かなければならない。
私は車の免許もむしろ車すら持っていないから、歩いて通勤している
ここからだと、20分くらいはかかるから、5時30分には出ないといけなかった。
もう一年通っているのだから慣れてはいるのだけど。

「あ、闇っ」
「恭嘉さん・・・」

家を出てすぐの十字路。そこで恭嘉さんが待っていることには未だに慣れない。
恭嘉さんと知り合ってからは、ほぼ毎日のように朝は途中まで一緒に行くようになった。
恭嘉さんも学校があるから、そのまま私の学校まで来ていたら遅刻してしまう。

「今日は早いから、最後まで送っていけます」
「あ、ありがとう・・・」

満面の笑みで答える恭嘉さんに、少し頬に熱が溜まる。けど

「こんな早い時間に・・・無理しなくてよかったのよ?」

昨日の帰り道に――帰りも迎えに来てくれている――
「明日は球技大会で朝早いから、明日は一人で行ってね」
そう告げれば
「何時に行くんですか?俺起きますから」
そう言われ、戸惑いながら時間を教えた。

まさか本当に待っててくれてるとはちょっと思わなかった。
普段なら恭嘉さんは7時前くらいに起きていると聞いた。
一時間半差は結構きついと思うのだけど・・・

「闇は危なっかしいし、こんな早朝に一人でなんて余計危ないですから」
「なんだかひどい言い様・・・」
「事実です」

恭嘉さんは、ははっと声を上げて笑う。私は、むっと頬を膨らませる。

「さ、行きましょう」

そう言って差し出された大きな掌。
付き合い始めてからは、少しずつ男になれましょうと手をつないで通うことにしていた。
私は少しためらってから、軽く握った。
ためらう理由は男慣れしていないから、と恭嘉さんは思っている。
本当はもう恭嘉さんなら平気なのだけど、少しの気恥ずかしさと不安でそうなってしまうのだ。
『不安』。
それは、年の差という超えられない壁。
23歳の私に対して、恭嘉さんは双子達と同じ16歳。7つの年の差がある。
もっと若くて綺麗な子の方がいいんじゃないだろうか。そんな不安が拭っても拭っても消えない。
この間このことを打ち明けたとき、恭嘉さんは「馬鹿だなぁ」と言って笑ってくれた。
それだけで、不安は吹き飛んだのだけど。またじわじわと湧き出てくるのだ。
自分はこんなに弱かったかなと思うほどに、恋愛になるとすごく心が弱くなる・・・

「今日は球技大会なんですよね?」

しばらく歩いていると、不意に恭嘉さんが口を開いた。
こくりと頷けば、隣で「いいなぁ」と声が上がる。
首をかしげて見上げると、恭嘉さんも私を見下ろしてきた。

「怪我をしたら闇に治療してもらえる」
「そんな、怪我なんてしないほうが一番よ」

恭嘉さんはまた笑うと「そうだよな」とひとりごちした。

「でも、他の誰より好きな人に治療してもらったら、早く治る気がする」

急に真剣な顔になって言うものだから、つい視線を逸らしてしまった。
顔が紅潮するのがわかって、空いた手で顔を押さえる。

「闇の学校が共学じゃなくてよかった」

そして、脈絡のないことを言う。
いったい今の話のどこに繋がるというんだろう?

「男の先生なんてほとんどいないんですよね?」
「う、うん・・・二人しか・・・」
「若い?」
「一人は20代の人。もう一人はお爺さんよ」
「一人でもいるにはいるんだよなぁ・・・」

ぶつぶつとつぶやく恭嘉さんにただただ首をひねっていると、恭嘉さんが手を強く握りなおした。
心なしか、恭嘉さんの手の湿度が上がってる気がする。

「年の差で不安になってるのは闇だけじゃないってことですよ」

こちらを向いた恭嘉さんは、いつもの笑みではなく眉尻を下げて困ったふうな笑みを浮かべた。

「その20代の人に比べたら俺なんてまだまだ餓鬼だから、いつ闇がそっちに行ってもおかしくないかなってさ」

恭嘉さんも不安になってたんだ・・・
でも、それはちょっと私に失礼じゃないだろうか

「それって、私のこと信じてないってことですか?」
「え?あ、いや、そういう意味じゃ」

そう言われて初めて恭嘉さんは気が付いたようで、あわてて弁解をしようとするが、焦り過ぎ思うように口が動いていない。
その様子が妙におかしくて、ついつい笑ってしまった。
くすくすと笑い出した私に、恭嘉さんははっと気が付いて、そっぽを向いてしまった。
ちらりと横目で見てみると、耳まで真っ赤にして「ちくしょう」と呟いている。

「もうちょっと私のこと、信用してね?」
「わかりましたよ・・・ったく、闇には敵わないな」

そうして、顔を見合わせて二人で笑いあった。



こうして毎朝笑いあって道を歩く。
それが、私たちの日常の中の朝。




あとがきと言う名の言い訳
書いてて思った。
甘ぇ、甘ぇよ・・・
なんだこれ、砂糖より甘ぇよ・・・
亜里守と蓮以上の馬鹿ップルですね。
まぁ、亜里守と蓮はちょっと暗い雰囲気の漂うカップルですが。
闇と恭嘉はお互いに言いたいことは言うタイプなので、いいカップルです。
ではでは、このへんで






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