『君の音色に惹き寄せられて』 2



「風呂場はここね。荷物は預かるよ」

阿楠の案内で洗面所に入ると、荷物を引き取られた。

「着替えは後で置きに来るわ。俺ので大丈夫やんな?」
「あぁ・・・」

案内されている間、俺はずっと首を動かしていた。
いつもつるんでいる双子だったが、まさかこんな豪邸に住んでいるとは・・・
家の豪勢さにも驚いたが、俺の目は自然と白い裾を探していた。
先程玄関先から消えたあとから姿を見ていなかった。

「使い方は・・・ま、やればわかるだろ。制服は、そこのハンガーにかけて」
「お、おう」

そしてさらに驚いたのは阿楠が、あの阿楠がすごくテキパキとお風呂場の用意をしていくのだ。
家事なんて一切できないと思っていた、あの阿楠が。

「じゃ、終わったら二階に上がっって来いや」

そう言って双子は洗面所を出て行った。
俺は少し躊躇いながらも服を脱ぎだした。
他人様の家で全裸になるというのも気が引けたが、濡れて張り付いた服はやはり気持ちが悪い。
さっさと脱いで風呂場に入り、熱いシャワーを頭から思い切りかぶる。
シャワーの温度は、さっき阿楠が確認してくれたのでちょうどよかった。
冷えた体が一気に熱くなり、濡れた服を脱いだ後の独特の不快感も消え去った。

「一体、なんだったんだろうなぁ・・・」

さっきの女性は・・・いや、『闇さん』か。
さっき阿楠がそういってたはずだ。
いつものように迷い込んだ見知らぬ町、そこで出会った不思議な女性。
不可抗力とはいえ、水をかけられたのだから腹を立ててもいいくらいなんだが、自分でも驚くほどに落ち着いている。
まぁ、俺はそんなにすぐに血が上るタイプではないから気にするほどのことでもないはずなんだ。
でも、なんだか、闇さんに関しては何でも気になってしまうんだ。
シャワーを浴びながらつい先程の出来事を思い返していると、扉の開く音がした。

「恭嘉、服ここに置いとくで」

阿梳が服を置きに来たようだ。
阿楠のいる前ではあまり聞けないだろうからな、今のうちに闇さんのこと聞くか。
ん?なんで阿楠の前では聞けないんだろ。

「阿梳」
「あ?なんや」
「ツインテールで白いワンピース着てる人、闇さん?あの人、お姉さんなのか?」

少し間が開いてから、阿梳が壁にもたれた雰囲気がして、返答があった。

「俺らの一番上の姉ちゃんや」
「一番上?」

今まで流しっぱなしだったシャワーを止めて、俺は耳を傾けた。

「言っとらんかったっけ?俺ら九人兄弟やて」
「聞いてねぇよ」

そんなことは初耳だ。お姉さんがいるということしか言ってなかったはずだ。

「お前、闇姉ちゃんに声かけたんやろ?」
「あぁ・・・」
「そら、お前が悪いわ」

俺は声に出さずに、ただ顔をしかめた。
なぜ声をかけるのが悪いんだ・・・

「なんで」
「姉ちゃんは男が苦手なんや。男が近づいたらすぐ逃げよる」
「男が・・・苦手・・・」
「俺と弟なら大丈夫なんやけどな」

そうか、それならあの反応もうなずける。

「そっか、ありがとな」
「姉ちゃんは手強いで?」
「は?」

なにやら含みを持った言い方に、阿梳から見えないけれど首を傾げた。

「お前、姉ちゃんに惚れたんやろ?」
「惚れた・・・?闇さんに・・・?」

そうつぶやいて、闇さんを思い浮かべた。
途端、顔に体中の熱が集まった。
きっと、誰が見ても俺の顔は今真っ赤になっていると思う。
そうか、好きになったんだ。
だから気になるし、腹も立たなかったんだ。

「ま、俺も出来る限り応援するさかい、頑張りや」

そう言い残して、阿梳は脱衣所から出て行った。
俺はもう一度シャワーを出して、頭からかぶりながらぼんやりと考えた。
実を言うと、これが初恋である。
初恋が一目惚れって、俺どれだけ面食いなんだよ・・・
でも、思い返せば、出会ってからずっと、闇さんのことは頭から離れなかった。
しかし、まさか友人の姉に惚れるとは・・・
というか、一番上のお姉さんってことは結構年離れてるんじゃないか?
聞く限りでは、男が苦手だというから多分恋人はいないんだろう。
でも、どうやりゃぁいいんだよ・・・
初恋の相手が男性が苦手って、ハードル高すぎだろ・・・
でも、恐怖症ってわけじゃないんだから、何とかなるか。
いやいや、でも近づいたらすぐ逃げるんだし、どうやってアタックすればいいんだよ!
一人湯を浴びながら悶々と考えていたら。

「くぉら、誰じゃ!湯を出しっぱなしにしとるのは!」

怒声と共に浴室の扉が開け放たれた。

「うわっ!す、すみません!」

反射的にお湯を止めるが、すぐに自分が裸であることを思い出し、そばにあったタオルを腰に巻いた。

「ん?お主誰じゃ?」

扉を開けたのは火の点いていないタバコを咥えた女性だった。
俺が裸であることは気にも留めず、誰何の声をあげた。

「き、恭嘉です・・・」
「あぁ、もしや双子の友かの?」

ただこくこくと頷いた。
い、いつになったら出て行ってくれるんだろう・・・

「あまり湯を使いすぎるでないぞ?水道代と光熱費は馬鹿にならんからな。
あ。あと、姉上がすまなかったな」

軽く頭を下げてから、長いポニーテールを揺らしながら女性は出て行った。

「な、なんだったんだ一体・・・」


俺は少しの間呆然と立ち尽くした。






あとがきと言う名の言い訳
えっと、結構だらだらと書いてしまいました。
というか、恭嘉自分の気持ちに気づくの早くない?
と思った方いると思いますが。
恭嘉がはやく気づかないと、闇ちゃんを堕とすまでに
すんごく時間がかかってしまいますので
今気づかないと、何時まで経っても堕とせません
ということで、気づかせました。
最後の女性は、節約第一ですから、男の裸なんて気にしません。
ではでは、檸檬でした。



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