『君の音色に惹き寄せられて』 3



「闇姉さんのケーキ美味いだろ?」
「あぁ、すんげぇうまい」

トイレから戻ってきた阿楠はもう、いつもの阿楠で、俺もいつもどおりに接した。
俺はさっきは聞き流したが、闇さんが作ったというケーキを今味わっている。

「どっかで習ったりしてたのか?」
「いや、独学だったと思うよ」
「独学?こんなにすごい物を作るのに?」

俺は甘いものが好きで自分で菓子とか作ったりするけど、こんなに本格的なものは作ったことがない。
本当にどこか店で売っているような綺麗な形のケーキだ。
スポンジはふわふわしてるし、周りのクリームもふわっとして口の中に入れたら蕩けて、苺もつやつやしてる。
苺は、関係ないか。

「苺もうちの庭で作ったやつなんやで?」

俺の思考を読んだかのようにタイミング良く阿梳が言った。
こんなに形がよくて、甘酸っぱくて美味しい物を育てられるなんて

「庭のことはほとんど闇姉さんがしてるから、結構好きなもの植えてるよ」
「へぇ・・・他には、どんなもの植えてるんだ?」
「たしか、最近は野菜とか果物より花とかの方が植えてるんじゃないかな」
「窓開けとくと、えらい花の匂いするからなぁ」
「じゃぁ、花とかの知識も多いんだな」

闇さんは多趣味なんだ・・・
そう考えていると、阿楠がにやにやと嫌な笑みを浮かべて俺を見ていた。

「なんだよ?」
「どうよ、恭嘉」
「なにが」
「闇姉さんに惚れ直した?」
「なっ・・・!?」

俺は驚いて、唖然としてしまった。
まさか阿楠にまでばれていたとは・・・俺ってそんなにわかりやすいやつだったのか・・・

「恭嘉ってわかりやすいんだよ」

俺の様子を見て、阿楠は呆れ顔で腕を組んだ。

「ほら、恭嘉ってさあんまり人の深いとこまで干渉しようとしないだろ?
それなのに、闇姉さんのこととなると結構聞いてくるし、なにより」

最後を嫌に強調して、阿楠は俺に人差し指を突きつけた。

「闇姉さんのことを聞いた後、必ずと言って良いほど、顔がにやけるっ!」
「な、なんだって!?」

ま、まさか自分がそんなことをしていただなんて・・・!
いままで顔をにやけさせるやつを馬鹿にしてた俺だが、それも改めなきゃいけないな。
なんせ、自分がにやけている張本人なんだから。

「まぁ、難しいな」
「お前まで阿梳と同じこと言うなよ・・・」
「あ、そうなの?やっぱ阿梳も気づいてたか」
「そりゃな、長い付き合いやし、わかりやすいし」

にやりと不敵な笑みを見せて阿梳は言った。
そう、俺は阿楠とは高校からの付き合いだが、阿梳とは中学の時から面識があった。
俺の所属するテニス部で中一の時に他校との合同合宿があったんだ。
そのとき、俺と阿梳はちょっとした事件に巻き込まれた。
そんなに大きな事件ではなかったけれど、同じ恐怖体験をしたことから仲が良くなり、今に至る。
だから、阿梳に隠し事はあまり通用しないんだ。

「よし、いっちょやりますかっ」
「やったるか」
「え?やるって何を」

阿梳と阿楠は顔を見合わせて、これ以上楽しいことはないという笑顔で俺を振り向いた。

「闇姉ちゃんと恭嘉を」
「くっつけよう大作戦!!」

俺は開いた口が塞がらなかった。
確かにさっき阿梳は協力するといったが、まさか阿楠と共同戦線を張るとは・・・

「というか、なんでそんなに息ぴったりなんだよ」
「え?そりゃ双子だから」
「・・・そーでした」

愚問だったな。
そういえば、そうだった。
こいつらはいつでも息ぴったりだったな・・・

「さてさて、さっそく作戦会議と行きますかっ」
「おー!」
「ほら、恭嘉もっ」
「えー・・・」
「さん、はいっ」
「おー・・・」

無理矢理に手を上げさせられて、作戦会議が始まった。



あとがきと言う名の言い訳
今回ちょっと短いですが、きりのいいところがここだったので、ここまでにします。
いやぁ、それにしてもにやにやするなんて恭嘉も変態ですねっ
「なんだって?」いえ、何も
さぁ、ついに共同戦線を引いた双子
作戦会議では一体どんなアイデアが飛び出すのかっ!
っと、ちょっと次回予告的なものをしてみる。
ではっ!




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