『君の音色に惹き寄せられて』5



「よし、では諸君、まず現在の状況を確認したい」
「はい」

俺達三人は今、小さな部屋の真ん中で正座しながら円を作っている。
ベッドにいた阿梳も降りてきて、作戦会議は阿楠司会で始まった。

「恭嘉と闇姉さんはまだ一度しか対面していない。そうだね?」

わざとらしい口調で問われたこの質問に、俺はだまって首を縦に振った。

「そして、不用意に声をかけた結果君は水をかけられ、闇姉さんは家に引っ込んでしまった」
「あぁ・・・」
「つまり、闇姉さんの第一印象は最悪なわけだ」

なんとなく思ってはいたが、こうはっきりと事実を突きつけられるとショックだ。
がっくりと肩を落とす俺の背中を、ポンッと誰かがたたいた。

「まぁ、しゃぁないて。誰も声かけたら逃げられるなんて思わんしな」
「あぁ・・・」

阿梳に慰められて、俺はさらに惨めになった。

「だが、まだ挽回の余地はあるのだよ、諸君」

そう言って、阿楠は人差し指突き出した。
俺は姿勢を正して真剣に耳を傾ける。

「闇姉さんが逃げたのは、『男』に関する先入観からだ。男の人は野蛮で危ないと、そう信じきっている。
だから逃げた。」

うんうんと、俺と阿梳は同時にうなずいた。

「そこで、恭嘉が温厚でお人よしな性格だと分かればっ、闇姉さんも恭嘉の見方を考え直すかもしれない」
「おぉー」

なるほどと俺たちは再び首を縦に振った。
確かに、闇さんは『男』が苦手だけど、『俺』が苦手なわけじゃない。
俺を知ってもらえば苦手じゃなくなるかも知れないという可能性はある。

「だ、だけどよ、どうやって俺を知ってもらうんだ?」

そう、近づけば逃げられるという前提があるのだから俺を知ってもらうのは至難の技だ。
不安をそのまま口にすれば、今まで阿楠の話を聞いているだけだった阿梳が口を開いた。

「まずは、慣れやな」
「慣れ?」
「そう、まずはお前が危険な存在やないっちゅうことを姉ちゃんにわからせなあかんのや」
「でも、どうやって?」

すると、二人して腕を組み、うんうんうなりだした。
考えてなかったのか・・・。
俺も二人に倣って考えてみるが、あまりいい案が浮かばない。

「うーん・・・なんかないかなぁ・・・」
「わしにいい案があるぞ」
「ほんと!?」 
「うむ、とっておきのな」
「・・・・って!地球姉さんっ!」

俺たち三人は驚いて飛び上がった。
まさか、俺たち意外の人間がこの部屋にいるなんて思いもしなかったからだ。

「ね、姉ちゃん、いつからここにおったん・・・?」
「そうさのぉ、阿楠が現状把握を始めた頃からかの」

つまり作戦会議が始まってすぐってことですね。
それにしても、一体いつのまに・・・
扉開いたかな?
先程と同じく、火の点いていないタバコを咥えて、地球さんは扉のすぐそばの壁に体を預けていた。
俺が観察していると、地球さんは口を開いた。

「扉が開いたのにも気づかなんだとは、情けないの」
「ご、ごめんなさい」
「というか、姉ちゃん・・・全部聞いてたっちゅうことは・・・」
「うむ、恭嘉とやらの気持ちも聞かせてもらったぞ」
「っ・・・!」

なんて恥だ・・・。
俺はひざを抱えて肩を落とした。

「これこれ、安心せい。姉上に言ったりなどせんよ」
「むしろ協力する気満々だよね?」
「当たり前じゃ、こんなに楽しいことを放っておけるわけなかろう」

にやりと口端をあげた地球さんの笑みは、双子にはなかった黒さが垣間見えた。
さすが大人だ・・・
地球さんは阿梳に間を空けるように言って、双子の間に胡坐を組んで座った。

「で、いい案ってなにさ」
「姉上はいつも徒歩で職場に向かっている」
「え、仕事、してらっしゃるんですか?」

俺は当然驚いてしまった。
男が苦手というのだから、てっきり仕事はせずにいるのだと思っていたのだ。
驚くのも無理はないと思うのだが、地球さんは露骨に呆れた顔を作った。

「当たり前じゃ。といっても、女子高の養護教員だがな」
「な、なるほど」

女子高だというなら納得できる。
男なんて普通いないものだしな。妙に納得して、俺はうなずいた。

「話を戻すぞ?いいか、姉さんは徒歩で学校に向かっている」
「確か、徒歩20分だっけ?」
「そうじゃ」
「それが一体・・・?」

俺が首を傾げると、地球さんは俺たちを鼻で笑った。

「みなもっと顔をよせい」

みんなで顔を寄せ合って、地球さんの作戦を聞いた。
それはちょっと無理矢理な気がするが、ちゃんとした作戦で俺は納得した。
体を元の位置に戻して、四人でうなずいた。

「それじゃ、早速明日からはじめるぞい」
「らじゃっ」

すると、よしと言って阿梳が立ち上がった。

「そうと決まれば、恭嘉。お前には道をきっちり覚えてもらうで?」

そうだった。この作戦では俺のいつもの方向音痴が炸裂しては意味がない。

「おう!任せろっ」




あとがきという名の言い訳
前回のお話から大分時間が空いての更新でしたが、皆さん内容覚えてらっしゃるでしょうか;
とまぁ、今回地球ちゃんが乱入してきましたねぇ
さてさて、地球ちゃんが提案した作戦とは・・・!?
勘がいい人は分かりますね。


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