『君の温かさに気付かされて』 1



昨日は驚きの連続でした。
庭の手入れをしていたら突然男の子に声をかけられて、尚且つ道を聞かれてしまった。
そしたらなんと、その男の子は阿梳ちゃん達のお友達だったのです。
不可抗力とはいえ、私のせいでびしょ濡れになってしまったので、うちでシャワーを浴びることに・・・。
お風呂から上がった、男の子−恭嘉さんは阿梳ちゃんの部屋でなにやらお話をしていたようです。
地球ちゃんも参加していたみたいだけど、何を話していたんだろう・・・。
しばらくして、帰るときに恭嘉さんがいきなりリビングに入ってきて、それにも驚いた私はすぐに台所に逃げてしまった。


*******


「あの、ケーキの感想を言いたかっただけなんですよ」

その言葉に、私は少しだけ台所から顔を覗かせた。
自分が作ったものだ、感想を言われるとあれば気にはなる。
見えた恭嘉さんの顔は心なしかホッとしたような顔で、なんだか申し訳なくなって。
気づいたら私は台所からでて、恭嘉さんに向き直った。
といっても、距離は少し離れているけれど・・・。
恭嘉さんは驚いた顔をしたけど、すぐに笑顔になった。
自分でもびっくりした。
まさか会ったばかりの人間、それも男の人相手に向き合って立てるとは思わなかった。
年下だからだろうか?それとも、阿梳ちゃんたちの友達だから?

「あの、おいしかったです。純粋に」

少し頬を染めながら、でも、しっかりと私の目を見つめて恭嘉さんは言った。

「あ、ありがとうございます」
「あ、それで」

その視線を真っ向から受けることができずに私は目をそらしたのだけれど、すぐに振り向くことになった。

「よかったら、作り方教えていただけませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・へ?」

作り方を教える?
私が?
恭嘉さんに?

「む、無理ですっ!!」

盛大に断ってしまった・・・。

それでも恭嘉さんは気にした風もなく、「当たり前ですよね」と笑って、「ケーキご馳走様でした」と言ってリビングから出て行った。


*******


「はぁ・・・・・」

どうして私ってこうなんだろう・・・
結局恭嘉さんに向き合えた理由も恭嘉さんが作り方を教えてくれと言った理由もいくら考えても分からなかった。
というか、考えているうちにいつの間にか寝てしまったようで、気づけば朝だった。

「お姉ちゃん、そろそろ出ないと遅刻するんじゃない?」

鏡の前で項垂れていたら、制服姿の亜里守ちゃんが入ってきた。

「え?・・・あ、ほんとっ」

亜里守ちゃんに言われ左手の時計を見れば、時計の針はちょうど家を出なければいけない時刻を指していた。

「ありがとう、亜里守ちゃん」

慌てて洗面所を出て鞄を取りにいった。
鞄をつかんで中身をざっと確認してから、そのまま玄関に向かった。
後ろで「気をつけていってらっしゃい」と亜里守ちゃんが手を振ってくれた。
それに、私も振り向いて「いってきます」と返して、小走りで玄関を出る。
もう一度時計を確認すると、もう二分過ぎていた。
別に家を出るのが二分遅れたところで遅刻をするというわけではないのだけれど、いままでずっとその時間に行っていたのだから、遅れるのも何か悔しい気がして、私は小走りでいつもの道を行く。

「あそこまで走ろうっ」

家を出てすぐの十字路、とりあえずそこまで走っていけば、あとは歩いていっても大丈夫だろう。
パタパタとパンプスが鳴り、鞄の中のカンペンケースがカタカタと音を立てる。
今日は膝下丈のスカートで走るにはちょうどいい感じで、あっというまに十字路についた。
ここを曲がれば、あとは学校まで一直線。
足を緩め、息を整えながら左に曲がる。

「ふぅ・・・」
「おはようございます、闇さん」
「ひふあっ!?」

驚きのあまり飛び上がって変な叫び声をあげてしまった。
だって、左に曲がったそこには、何故か

「な、ななななななん、き、きょさ、がっ!」

私の動揺する姿を見て制服姿の恭嘉さんはくすくすと笑った。

「落ち着いてください、闇さん」
「え、ぁ、お、お落ち着いてますっ」

さらに笑う恭嘉さんを私は唖然と見つめていた。
何で、何で恭嘉さんがここに?
一度だって見かけたことはないのに。

「あ、あの、な、何で・・・?」
「阿梳達に言われたんです」
「??」

双子に?一体何を言われたというんだろう・・・
私の頭の上には「?」マークが浮かぶだけだった。

「闇さんいつもひとりで行ってるから、心配なんだそうです」
「し、心配・・・?」

この職場に勤めだしてほとんど一年が過ぎようというのに、今更心配?

「だから、俺は送り迎えを頼まれたんです」
「た、頼まれたって・・・」

私は納得がいかなくて、口を開こうとすれば、「あ」と恭嘉さんが声を上げた。

「そろそろ行かないと、遅れますよ」
「え?」

時計を見れば、もう3分経過していた。

「ほ、ほんと・・・」

もう、いつもの時間に行くことは無理か・・・
と、諦めて方を落としたとき、手に何かが触れた。

「え?」
「急ぎましょう」
「ちょ、えあ」

何かとは、恭嘉さんの手だった。
恭嘉さんは私の手を取って走り出したのだ。
私が手を振り払う隙もなく。
男の人に手を握られている。
触れられている。
その事実は私の頭をショートさせるには十分で、その後の記憶は曖昧だった。
私が気がついたときにはもう学校で、恭嘉さんと別れた後だった。





あとがきという名の言い訳
更新までに大分時間がかかってしまいました・・・大変申し訳ない・・・
さぁ、第二章始まりました。闇ちゃん視点で始まりました。
恭嘉に振り回されてますね、見事に。さて、どうやって惚れさせるか・・・
ではでは、檸檬でした。



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